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内田歯科医院 新聞 2025年11・12月 『北海道余市で出会った「幻のワイン」と情熱』

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北海道余市で出会った「幻のワイン」と情熱

数年前、長年の患者さまが北海道余市でブドウ畑を購入されたことがきっかけで、私も余市を訪れる機会をいただきました。

その際に見学させていただいたのが、ワイン醸造家、曽我貴彦さんのドメーヌ(ブドウ畑と醸造所)です。

貴彦さんは、余市の厳しい自然とテロワール(土壌)に真摯に向き合い、「日本ワインの常識を変えた」と言われるほど、世界から注目されるワインを生み出しています。

小売価格5,000円ほどのワインが、ネットショップでは9万円近い値で取引され、オークションで空き瓶まで出品されるほどの人気と価値を持っています。

その情熱が詰まった書籍『ドメーヌ・タカヒコ奮闘記 ニッポンの「うま味ワイン」、世界へ』も最近出版され、待合室にも置いております。

 

澄んだ空気と広大で美しいブドウ畑の景色は、まさに圧巻でした。

遠くに海を望む畑は、風がビュービューと吹き付け とてもとても寒かったのですが、貴彦さんの熱く 滔々と続くお話には引き込まれてしまいます。

2009年に余市に移り住んだ貴彦さんが目指すのは、ピノ・ノワールで造る「お出汁(だし)のような旨味のあるワイン」です。

その製法のヒントは、出身地である信州のおばあちゃんたちが作る野沢菜漬けにありました。

「川で洗って、塩して、使い込んだ古い漬物桶にぶち込んで放っておけばできあがる」という、誰でも真似できる簡潔な手法です。

ワイナリーの立ち上げには通常最低1億円が必要と言われますが、貴彦さんは「1,000万円で開業できる」と、余市でワイン造りを志す研修生に語ります。

この根底にあるのは、多くの人が気軽にワイン造りに参入できる環境を作りたいという強い思いです。

 

余市にはワイン用のブドウ農家は多くありますが、ワイナリーはわずか一軒。

ブドウが安値で取引されるため、後継者不足という大きな課題を抱えています。

貴彦さんは「余市がワイン産地となれば、誰かがワイン造りを受け継ぎ、町に住み続ける」という信念を持っています。

実際、収穫されたブドウはボランティアの協力で集められ、合成樹脂製のタンクに入れられます。

その後、野生酵母で発酵するのを気長に待ち、12月頃に発酵が終わると、脚で踏んでプレス機にかけ、樽に入れるという、簡便な手法が用いられています。

この「風土の個性を映したおいしさ」と「誰にでも真似できる簡便さ」が、余市でのワイン造りには絶対に必要な要素です。

貴彦さんの熱意は、余市の町を大きく変えています。
2009年にわずか一軒だったワイナリーは、今や20軒を超えるほどに増え、北海道の約3割のワイナリーが余市町にあるそうです。
ワインなどのふるさと納税も好評で、小学校の給食費が無料化になるなど、貴彦さんの信念が町を元気づけているのです。
彼の代表作である「ななつもり」は、その質の高さから瞬く間に完売し、今や入手困難な「幻のワイン」として知られています。
それは、貴彦さんの努力と、地域を思う情熱の結晶に他なりません。皆様も待合室で、この本を手に取り、その尽きることのない情熱を感じてみてください。
 

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